袋ナットLOVEコラム

  • 2025年12月05日 トラブル解決
  • 錆の発生を防げ! 袋ナット内部に「確実に」めっきを施すための技術と選択肢

なぜ今、袋ナットの内部処理が重要なのか

袋ナット(キャップナットとも呼ばれます)は、ボルトの雄ねじ先端部を覆い、怪我の防止や錆の発生を防ぐために開発されました。特に外観を美しく見せる「化粧ナット」としての役割も担っています。

近年、電気自動車(EV)関連の部品などで、フランジ袋ナットの使用が増加しており、特に内側の防錆性が重要視されています。ネジを締めた際に発生する切り粉やゴミが内側に入り、車両の系統に影響を及ぼすのを防ぐ目的も加わり、「内側に錆が発生してはならない」という厳しい品質要求が求められています。

しかし、袋ナットのキャップの内側は袋状の形状(止まり穴)になっているため、通常のめっき方法では処理液が行き届かず、メッキが均一につかない、あるいは全くつかないという課題に直面します。

1. 袋ナット内側へのめっきが難しい「4つの原因」

袋ナットのキャップ内側へのめっき処理を困難にする要因は、主に以下の4点です。

(1) つきまわり性の問題(電気めっきの場合)

一般的な電気めっきは、電気を利用するため、電気が流れやすい部分(外側や角)にめっきが厚く析出し、流れにくい内部の奥には薄くしか析出しないという性質があります。この「つきまわり性の悪さ」が、袋ナット内部でめっきが不均一になる主な原因です。

(2) エアだまり(空気溜まり)

めっき液にナットを浸漬する際、袋状の内部に空気が溜まってしまい、「エアだまり」が発生します。空気が溜まると、めっき液が金属表面に接触できなくなるため、その部分にめっき皮膜が形成されません。

(3) 液だまり・液の置換不足

めっきの前処理(脱脂、酸洗い)や後処理(水洗い、乾燥)の工程において、キャップ内部の液が抜けきらずに残ってしまうことがあります。これは、その後の工程の品質に影響し、シミや腐食の原因となります。前処理の液が抜けなかったり、水洗いで水が入ったままめっき皮膜がつかないという状況も生じえます。

(4) 前処理における表面の汚れ

袋ナットの多くは、ナット本体にキャップを溶接して作られる「3形」が主流です。この溶接の際に発生する溶接焼けや、残存する油分などの表面の汚れは、めっきの密着性に深く関わります。特に油が焼けている場合、前処理でこれらを完全に除去するのが難しく、めっき不良の原因となります。

2. 内部めっきの課題を解決する具体的な方法

袋ナットの「内部」まで確実に、そして均一にめっきを施すためには、その形状に適しためっき工法を選択し、工夫を凝らす必要があります。

① 無電解ニッケルめっき:品質要求が厳しい場合の最適な選択肢【推奨】

最も確実で、品質要求が厳しい場合に適しているのが「無電解めっき」です。
無電解めっきは、電気を使わず化学的な還元反応を利用するため、「つきまわり性」が非常に優れています。液が触れてさえいれば、袋ナットのような複雑な形状の内部でも、均一な厚さのめっき(皮膜)を期待できます。

代表的な無電解ニッケルめっきは、緻密な皮膜が形成されるためピンホールが少なく、高い硬度と優れた耐食性を持つことが特長です。

【課題解決のための技術的な工夫】

理論上、液が内部に入ればめっきは付着しますが、エアだまりを防ぐために以下の工夫が重要です。

  1. 液の流動(動揺): めっき処理の際に、ナットを一つずつジグにかけたり、かご(バレル)に入れたりして、角度を変えるなどして動揺させます。これにより、内部に溜まった空気や液が排出され、めっき液が金属表面に接触できるようにします。
  2. 前処理の徹底: 溶接焼けや油分などの不純物は、めっきの密着性に関わるため、前処理で完全に除去する必要があります。材質(鉄やステンレスなど)に応じて、前処理の条件設定を変える必要があります。

② 電気めっき(従来のめっき)で工夫する場合

コスト面などの理由から電気めっきを選択する場合、内部へのつきまわり性を改善するために、以下の方法が挙げられます。

  • 補助陽極の使用(ラックめっき): ナットを治具(ラック)に固定し、内部にまで届く特殊な電極(補助陽極)を設置し、強制的に電気を流してめっきを析出させる方法です。しかし、専用治具が必要で手間がかかり、大量生産には向きません。
  • バレルめっきでの動揺: 大量のナットを樽(バレル)に入れて回転させることで、内部の空気や液が排出されやすくし、内部にも多少めっきが乗ることを期待します。ただし、均一性は保証されず、「内側にも多少付着していれば良い」という要求レベルに適しています。

3. コストと品質のバランス:試作の重要性

無電解めっきは、通常の電気めっき(バレル想定の金額)と比較して、コストが高くなる傾向があります(例えば、約10倍程度)。もし鉄材(SWCH10Rなど) への無電解ニッケルめっきが高コストになりすぎる場合、めっきなしのステンレス材の採用と比較検討されることもあります。

しかし、電気自動車向けなどの用途では、内部の錆防止という機能性が非常に重要であるため、高品質を追求する必要があります。

大量生産に入る前に、実際に試作を行い、めっき液が袋ナットの内部に確実に付着しているかを確認することが、品質保証の観点からも極めて重要となります。

4. その他の袋ナットへの付加価値向上技術

めっきは、袋ナットに防錆性や硬度以外にも、様々な付加価値を与えることができます。

  • 低温黒色クロム処理: 光の乱反射を防ぎたい、マットな黒色処理でシャープな印象を持たせたいといった外観の要望に対応できます。
  • 抗菌めっき: 非常に高い抗菌性で、菌やカビの繁殖を抑える技術です。水回りや食品関係の装置部品など、衛生的な環境が求められる用途に応用可能です。

袋ナットの設計段階からめっき処理の専門家と連携することで、お客様が抱える課題や商品全体の完成イメージを共有し、最適な解決策を見つけることができます。

contact お問い合わせ

技術的なご相談や研究依頼等、
お気軽にお問い合わせください