袋ナットLOVEコラム

  • 2025年12月05日 業界・商品情報系
  • 袋ナットのキャップの板厚は?JIS規格と市販品で厚さが違う理由を解説!

袋ナットのキャップの厚さは、JISによって定められています

JIS規格によると袋ナットM6のキャップ厚は0.6ですが、現在市販されているM6のキャップ厚は0.5となっています。これはどちらが正しいのか?この疑問を探っていきます。

まずはJISの基準はどのように決まるのかを見ていきましょう。

袋ナットのJIS規格(日本産業規格)は、JIS B 1183として定められており、その制定・改正は、主に日本の産業標準化を司る公的な機関と、ねじ関連の専門機関の審議を経て行われます。

規格の改正にあたり、日本ねじ研究協会 (JFRI) および 財団法人日本規格協会 (JSA) から、工業標準原案が具備され、経済産業大臣に改正の申出がなされます。例えば、JIS B 1183:2010の改正原案は日本ねじ研究協会が作成しました。

とある事から、日本ねじ研究協会(JFRI)が原案を作成していると思われます。
そしてキャップの板厚を決める際、何を基準として決定しているかが問題となります。

  1. 機械的性質(強度)の確保:鋼ナットは、強度区分 4T、5T、6Tのいずれかの機械的性質を満たす必要があります。これには、規定された保証荷重に耐えることが求められます。キャップ部の寸法は、この強度要件を全体として満たすように設計されている必要があります。
  2. 溶接状態試験の明確化:2010年の改正(JIS B 1183:2010)において、3形のナットのキャップ溶接状態を調べる方法が明確化されました。旧規格では「キャップが変形するまで」という不明確な表現が用いられていましたが、審議の結果、より具体的な状態として「キャップ部にき裂が発生するが発生するまでナットをねじ込んだとき、溶着部周辺にはがれが生じてはならない」と規定されました。

この「き裂が発生するまで」という規定は、キャップ部がねじ込みトルクに対して一定以上の破壊強度(変形強度ではなく)を持つことを要求しており、この機械的要件をクリアするために、規格上の寸法(および結果としての板厚)が設計されたと考えられます。

市販品のキャップの板厚はどのように決まったのか

  1. 強度上の理由
    袋ナットは、取り付けた際にネジの先端がキャップの底に当たらないように使用するため、キャップ自体に高い強度は求められません。
  2. 製造上の理由
    溶接品質の確保: キャップの板厚が厚いと、溶接に大きな熱エネルギーが必要になります。その熱でナットのネジ山が変形し、ネジが固くなる不具合を引き起こすのを防ぎます。
    加工性の確保: キャップはプレス加工で作られるため、サイズに応じて加工しやすい適切な板厚が選ばれます。

これらの条件を満たすため、袋ナットのキャップには最も合理的で無駄のない板厚が選ばれています。

JIS規格と市販品での差は「目的の違い」から

袋ナットのキャップ板厚に関する議論は、「現場の知見」と「公的規格」のどちらを重視すべきかという、ものづくりの本質的な問いを投げかけます。

現場では、溶接時の熱によるネジ山の変形を防ぎ、安定した品質を保つために、板厚を厚くしすぎないことが重要とされています。キャップ自体に強度が求められないこともあり、「可能な限り薄くすること」が最適解と見なされています。

一方でJIS規格がより厚い板厚を要求するのは、製品が市場でどのような状況に置かれるかを想定した「フェールセーフ(失敗しても安全を保つ)」の思想に基づいています。万が一ネジが底付きして荷重がかかったり、外部から衝撃が加わったりした場合でも、破損を防ぐための強度を保証しているのです。

結論として、両者の主張は「目的の違い」から生じています。

現場の設計: 特定の製造プロセスと使用条件における「品質とコストの最適化」
JIS規格: 不特定多数のユーザーと環境を対象とした「信頼性と安全性の標準化」

したがって、どちらが正しいかと二元論で判断するのではなく、それぞれの設計思想を理解し、その製品がどちらの価値観に基づいて作られているかを見極めることが肝要です。

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